もう一度、もう一度と

（大工の棟梁らしい人物と話し込んでいるようだ）

「敷地はとりあえずここまでいけるんで、一階二階合わせて十は増やせるけどな」

「うーん……。そこまではいいですわ、キリよく四増やして欲しいんです。上下二ずつで」
 

「そしたらここのどんつきをぶち抜いて増築やな」

「はい、いつもお願いしてる感じで」

「しかしいつも贔屓にしてもろてすんませんな」

「いいえ、姫路から来てもうてこんなちっさい仕事ばっかりでえらいすんません」

＊＊＊

「見積もりはいつも通り、銀誓館学園名義でよろしか？」

「はい、お願いしますー」

「ほな工事開始日にまた」

「はい、お待ちしてますんで」

＊＊＊

（ぱたぱたとやってきた小さな影）

「岸和田のおじさんかえったの？」

「うん、明後日から工事来はるって」

「そっかー」

「また四部屋増やすでー」

「でも、もうおしまいにするんでしょ？」

「何を？」

「おへや、かすの」

「急にやめれる訳ないやろ、あんた明日からどこ住むねん」

「そうじゃなくて……たつみちゃん、もうそつぎょうしちゃうんでしょ」

「そうやで。ここお養父さんの土地やし、来年からはあんたの名義にしとくからね」

「じゃあおしまいにしなくちゃだめだよ」

「……？」

「たつみちゃんのものじゃなくなっちゃうんだよ」

「せやけど、あんたに全部やってもらうのと違うねんで」

「じゃあボクいなくなったらどうするの？ボクしんじゃったらどうするの？」

「えっ」

 

「たつみちゃんわかってないよ……」

「………」

「みんな、ずっとずっとここにはいないんだよ」

「……分かってる」

「わかってないよ。みんなおっきくなって、おとなになって、つよくなって、ここからでてっちゃうんだよ」

「………」

「なのに、たつみちゃんだけはずっとずっとおなじなんだよ。へんだよ」

「……同じ？」

 

「……ボクね、きょう理科のじかんにビデオみたんだよ。アサガオの芽が土から出て、お花がさくまでのはやおくりのやつ」

「そうなんや」

「ボクおもったんだ。いきものはみんなちいさいけど、みんなおっきくなるって」

「うん……そやね、みさきも一年で身長ようけ伸びたもんね」

「でも、たつみちゃんはおんなじなんだよ」

「何が、同じなん？」

「ここがおうちになってから、ずっとおなじ。さいしょから、みんなのおかあさん。さいごまで、みんなのおかあさん。それってすごくおかしいんだよ……」

「………！」

 

「…………ボクね、たつみちゃんがひとりになったとき、ざまあみろっておもっちゃったんだよ」

「……五月のこと？」

「うん」

「……言うてたね、亘理怒ってたで」

「うん。ゆっちゃいけないことゆっちゃった。……ごめんね」

「ええねんで、あかんこと言うたって分かったんやろ？」

「うん。でも、なんでざまあみろっておもったのか、たつみちゃんにゆってなかった」

「あの人のこと、嫌いやったからやのうて？」

「きらいだったよ。でも、もっと……」

「うん」

「くやしかった。あいつのことしゃべるたつみちゃんが、すごくかわいかったから」

「！」

「そのときたつみちゃん、おかあさんじゃなくて、おんなのこだった。ボクがだひゅちゃんかわいいなあって思うときの、だひゅちゃんといっしょだった。」

「………」

「たつみちゃんがおかあさんじゃなくていいのが、あいつのまえでだけだったの、ボクすごくくやしかった」

「……そうなんや」

「なんでボクじゃないんだろう、なんでおいちゃんじゃないんだろう、なんでしょーじろじゃないんだろう、なんでみっちーじゃないんだろうって、すごくかなしかったんだよ……」
「………」

「……たつみちゃん」
「何……？」
「ボクと、やくそくして」
「出来ひん約束はせえへんで」
「やくそくしてくれなかったら、ボク駒鳥でてっちゃうよ。だひゅちゃんとふたりでくらす……」
「阿呆か！あんたらいくつやと思てんねん！」
「そうやってこどもあつかいしないでよ！！！ボクも、みんなも！」
「実際お子様やろ！？お子様を子供扱いして何があかんねん！」
「だってボクしってるもん！たつみちゃんはボクがこどもじゃなかったらすきじゃないのしってるもん！」
「なっ……！」
「駒鳥のみんなもそうなんでしょ！こどもあつかいして、めんどうみて、おかあさんおかあさんっていわれたいだけなのしってるよ！！」
「なん、なんで、そんなこと……っ！」
「ほんとはだれのこともすきじゃないんでしょ……！？」
「何言うてんの……！！あたしが、どんだけあんたのこと……！」
「じゃあすきになってよ！たつみちゃんがたつみちゃんのことすきになってよ！」
「！」


（長い、沈黙の後）


「ボク、たつみちゃんのまわりからだれもいなくなっても……たつみちゃんのことすきなんだよ」
「みさき……」
「だから、ボクとやくそく、してよ」
「うん……何を約束したら、ええの」
「みんなにすきでいてもらおうって、もうおもわないで……？」
「………」
「おこったり、ないたり、やきもちやいたり、きれいじゃないとこもちゃんとみせて……。きらわれたくないからって、びくびくしないで……」
「………」
「どんなになっても、たつみちゃんはたつみちゃん、なんだよ」
「……うん」


（黒い影がふたつ、寄り添って。吐いた息は少しだけ白く）


「…………ほんとにさー」
「……何？」
「ボクがいうせりふじゃないとおもうんだよね！」
「？」
「ボクだひゅちゃんとらぶらぶするのにいそがしいんだからね？たつみちゃんもはやくかれしつくりなよ！ボクよりかっこよくないとだめだけどね！」
「阿呆か、そんなんその辺にごろごろ居てるわ」
「そんなことゆって、10年後にまけいぬっていわれてもしらないんだよ！」


（小さく呟いた　ありがとう　は　夜の帳に溶けていく）


PL：
大変重たいRPでした。
こんなもんに他所様を巻き込むのはどうかと思ったので同背後劇場ですみません；ｗ；

そんなわけで駒鳥は今後四十部屋＆その後の店子さん募集は一切行わない予定、です。
食客さんは募集するかもしれません。予定は未定なので悪しからずご了承くださいませ。