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『シルバーレイン』内PC 依藤たつみの日記
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"恋焦がれて死んでしまいそう"


(坤から借りたMP3プレーヤーで何度も繰り返し聞いている)

+ + + + + + + + + +
非日常の二日間、学園祭が終わったからといって
日常の全てが元通りになるかといったら必ずしもそうではない。

祭りの後は、残る熱気もどこか寂しく物悲しい。
それが祭りだと知っているから、余計に。



学園から駒鳥への道を辿る夜十時。
昨日は二人で通った道を、今日は一人で。

ただいまの挨拶もそこそこに、居間でテレビを見ている店子を素通りして自室に入る。
いつもと違う様子を見咎めた瑞音が冷たい麦茶を持ってきてくれたが、
学園祭で寝不足なだけだからと緩く笑んで心配をかわした。


「ごめんなァ、ご飯とかサボって。ちょっと寝てへんだけやし、平気平気。」


「そうか…。ならいいのだが、あまり心配させないでおくれよ?」


大丈夫、と手をひらりと振り湯浴みの支度をする。
追及するのは野暮かと察したのだろう、瑞音もそれ以上は何も言わなかった。






「……焼けたなァ…。」


なるべく紗を羽織っているようにはしていたけれど、
どうしても外に出ずっぱりでは日焼けをするのは仕方ないだろう。

脱衣所にある姿見の前で、水着の形に分かれた肌の薄ら赤と白の境界をなぞり、
熱を持った薄ら赤に祭りの名残を想った。



「………!」



不意に、肌へぞくりと走る寒気。
厭なものではない。

これは高揚感だ。
体の全てを使って聞いた音。音楽。
鮮やかに記憶がよみがえる。

嗚呼。




髪を結い上げて風呂場へ足を踏み入れる。
湯船の湯と水を半々にして焼けた肌に浴びせる。
終わった祭りの名残を洗い流すように、また来る明日に意識を戻すように。

それでも。


熱い湯船に身体を溶かし、思うことは沢山。
明日の献立、夏休みの計画、この間の依頼のこと、

それから。


何度も襲うあの感覚に、思わず肩へ手を遣り自分を抱き締めるような形をとる。
鳩尾のあたりが、寒気がするほど熱い。

湯船の縁に頭を乗せ、魂が抜けるほど長い溜息を一つ吐く。






うつつ



うつつ





首筋にじわりと滲んだ汗を掌で拭い、現に戻れと湯船の湯で顔を洗う。

そうして髪を身体を洗い何度も湯船と洗い場を行ったり来たりしているうちにたっぷり二時間は経っていて、
結局湯を上がる頃にはもう一度瑞音に心配される羽目になっていた。







瑞音に謝り、明日の朝食を彼女に任せることでなんとかお説教を免れた。
寝坊をしてもいいのなら、と布団に転がって鞄の中をごそごそと漁る。

取り出したのは、坤から借りたMP3プレーヤー。
電源を入れ、モノクロの画面から好きな曲のタイトルを探す。

パソコンの操作がよく分からない自分が色々いじるのは不安だからと、
自分の好きな歌手の曲を一揃え入れておいてくれるあたり、可愛らしい。

何の前触れもなく突然貸してと言っただけなのに、
ここまでしてくれる友人なんて居るだろうか。

お礼を考えながらタッチパッドをくるくると操作し、
亀吉さんからの着信音にしている曲を呼び出す。



"春を待つより今すぐ あなたの元へ"



軽快な音と少し切ない歌詞が好きだ。
こっちでは鳴らないかな、と携帯を引っ張り寄せて小さな液晶を見つめるが、
夜中の2時にそれは無理がある。

諦めて携帯を充電器に戻し、また耳元の音に心を乗せた。


「…?」


次の曲のイントロは聴き覚えが無かった。

どうやらランダム再生になっていたらしく、
慣れてはないけれど記憶の何処かにある音が飛び込んでくる。

同じ人たちの声であることは分かる。
けれど、このリズムとメロディは別の声での記憶があった。



"恋焦がれて死んでしまいそう"



……。

ああ。


そうか、これを最初に聞いたのは




(新曲出るんだぜ、今度カラオケで歌わねえ?)




サビの部分は、そう。
亀吉さんの声で聞いたことが、ある。

思わぬところから出てきた恋しい人の欠片に、
枕を抱き締めて何かを想った。

プレーヤーの設定を変えて、この曲だけがリピートするように。

英語の部分はよく分からないけれど、
何度も聞くうちに夏の終わり、恋の終わりを思わせる歌詞が胸に切なく響いてくる。

祭りの名残を抱き締める今の自分には、
この曲は何だか。とても。





(……逢いたいなァ)




恋しい人を思い出すと、鳩尾の辺りが熱くなる。
それは昨日味わったあの高揚感に、よく似ていた。

終わらないで欲しいと想う気持ちそのままに。










***

PL:
RIPの新曲聴きすぎてこんなもん書いた自分に渇。
祭りの後の雰囲気とシンクロしてしまったようです。
実際の曲がベースになっているので日記でなくアンオフィSS扱いで。
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プロフィール
HN:
依藤たつみ
性別:
女性
自己紹介:
依藤たつみ(よりふじたつみ)
土蜘蛛の巫女×鋏角衆
仁奈森キャンパス2年1組

***
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