雨燕

（それは　とても蒸し暑い夜の出来事）

あきません



腹も減っとらんのにそれ以上食べたらあきません





「全ての人間は土蜘蛛様の糧でしか無いのや」




何戯けたことを言うとんの





「戯けたことを言うとるのはお前様やろうが」





ちがう

そうやって全部を食べようとしたらあかん

生き物は土蜘蛛さんだけのものやない





「あやなし風情が口答えを……！女王の贄にしてくれてもええのやで！」








　　　い　や　だ　　　　　　　　　　いやだ　　　　　　　　　！！！！！！！





「……！！！」












「！！！！！！！！！」




カッと目を見開いて目が覚めた。

葛城の夢を見ることなんて無かったのに

どうして。





背中を伝う冷や汗に、夢の最後で感じた悪寒が繰り返される。



誰かに電話をしようとして、やめる。



夜中とも朝とも区別のつかない時間。



今ここで思い切り泣き喚けたらどれだけ楽になれるだろう。

吐き気がするほど寒い。

それでも。






手の甲へ静かに唇を落とし、ぬくもりが残る間に指で五角の星を描く。
葛城に数多眠るどんなに偉大な祖霊様より、このおまじないは心を鎮めてくれた。

微かな痛みを覚えている額に、手の甲を当てて。
浅かった呼吸がゆっくりと整えられていく。

抗うために闘う覚悟がある。
連れ戻してくれる人が居る。



繋いだ手の温もりは
何にも勝る　無二の




忌まわしい記憶を追い出すことが出来なくとも
囚われ続けようとも

抗う力が両の手にある



それは誰かが残した

生の証にも似て。