黒檀 六（了）

　

でもね、聞いて坤

亀吉さんはあたしが勝手に想像したよりずっと強かってんよ




立ち止まったら泣いてまうだけのあたしに

大丈夫って。
自分が怪我してんのに「大丈夫」って言うてんで。





あたし、それ聞いてやっと目ー覚めた。


闘う覚悟で以って此処まで来とんのや、
男の仇も取らんと何が葛城の女やって。


…都合ええってか。
確かにそやわ。

でもあたしが葛城の女なんは一個の事実や。
実際、あんたと居てるより長い時間をあっこで過ごしてねんもん。

葛城は故郷とちゃう。
ちゃうけど、確かにあたしが生きた場所なんよ。



話、逸れたな。

えっと…


そう、男の仇も取らんと、ってとこか。



大丈夫ってにっこり笑われちゃ、それ以上泣きつくんは女が廃る。
あやなしはもう嫌なんや。

だから、行って、きた。


一人で？ちゃうよ。
坤に声かけようか迷ったけど、あんたはちゃんと背中を預ける人が居てたもんね。

あたしもあたしで居てるのや、並んで歩くくらいの可愛い相棒が。



後は坤と同じとこに居てたし、取り立てて話すことも無い…やろか。

でも、目ー覚めてからは何か吹っ切れたっちゅうか…
桜と一緒やったら気使わんでもええのはあるけど。
兎に角、躊躇わんかった。


亀吉さんがあたしを信じて背中を押してくらはったから、かな…。


だって聞こえるんよ、声が。

…電波受信したとかそんなんちゃうで！
応援や、応援！あんただってあったやろ！

ちゃんと、帰ってこいよって。
そんなん言われたら誰かて頑張るに決まっとうやん。



桜は何も言わんとついてきてくれたけど、
面白くなかってんやろうなァ…。

鎌倉帰ったらご機嫌とったらんと。




闘い終わるまでの話はこれでほんまにおしまい。

……あとは、一人で思い出させて。
ちょっと人様に話すようなことちゃうし。

でもね。

ちゃんと分かったよ。
亀吉さんと惣ちゃんは別のお人やって。

ちゃんと、ね。
別の好きが出来るって思た。

それに今やから分かるねん、
あれって先のことを約束するためにするもんなんやなァって。

惣ちゃんもきっとせやったし、
亀吉さんにも、そんな気持ちでおれたもん。


生きとったら、ええことあるね。
ほんまに。


……坤。
聞いてもうておおきに。