鴛鴦

　

小っさい頃の記憶が薄いのは　きっと
覚えとかなあかんことが何ぼも無かったから
そう思たらええ

どうせ大した理由なんて無い筈や
親が居てないのも　巫女になったのも





***





十一の頃　逃げるように葛城のお山を降りて
その後すぐのことをよう覚えとらん

気がついたら親の居てない子らが集まるところ
…孤児院やったっけ？
そこに一人で居った

さして苦労もせんと
里親さんに引き取ってもらえることになったんはありがたかったけど
お山に残してきた惣ちゃんが気になって　しばらくは泣いて暮らしとった

お養父さんお養母さんは何ていうねやろなァ…
養子縁組とかそない難しいこと言わんと
道楽で子を育てる感覚であたしを引き取ったらしくて
一人で何でも出来たあたしは手のかからないええ子やったみたい

それに　あたしが元々持っとった苗字
依藤のままでええよって言うてくれはった
嬉しかったなァ
惣ちゃんとお揃いのたった一つのもん　失くすんが怖かってん




…そういえば

時々　こっそり学校さぼって
お山に戻ってきてたあたしのこと

惣ちゃんはどう思ててんやろ

他の巫女が大嫌いでお山を降りたはずやのに
気がついたら足は葛城に向いとる

来る度にいつもと変わらん顔であたしを可愛がってくれはった惣ちゃん
銀学との戦争ん時に死んでもうた惣ちゃん

あの時
無理やりお山から連れ出しとったら
何か変わっとったんかな

考えるだけ無駄なんは分かっとうよ
惣ちゃんがおらなんだから今のあたしは銀学に居てるのやし

それでも
生きてさえおったらええ事あるって
せやったら惣ちゃんにも生きてて欲しかってんもん

この世でただ一人
あたしの家族て呼べる人に