部屋に飛び込んで目に入ったのは、くすんだ灰色の蜘蛛童。
成体より少し小さく、目がくるりとした可愛らしい童。
自分の声に反応し、嬉しそうに脚を這わせやってくる様子が愛しい。
「あァ、ちょっと大きなったねえ!」
嬉しいと脚に擦り寄る癖は変わっていない。
しゃがみこんで目線を合わせ、まだ文様の入っていない腹をそっと撫でた。
学園に行くことが決まってから、一番頭を悩ませたのが御先のことだった。
成長中の童を連れて住めるところも見つからず、
(後にイグニッションカードの存在を知り、取り越し苦労と気づいたのだけれど)
そのうえあの時分では惣ちゃんの力を捨てたらまた心が折れてしまうのは火を見るより明らかだった。
お養父さんお養母さんが面倒を見てくれるなんて、誰が思っただろうか。
どこの誰とも分からぬ自分を拾ってくれただけでも十二分に有難かったのに。
学園の支度、駒鳥のこと、御先のことと世話を焼いてくれた。
もしかしたら、と思う。
お養父さんお養母さんは、自分と自分の両親を知っているのではないかと。
それは今までに何度も思ったことで、その度聞こうとしては諦めた。
自分が両親のことを覚えていないのはきっとそれなりに理由があって、
お養父さんお養母さんもそれは知らないかもしれなくて。
それでは駄目だと、何度も言葉を飲み込んだ。
恩を裏切るわけにはいかない。
哀しい顔をさせたくない。
それでも。
これを思い出すたび、忘れようとした疑問が鎌首を擡げる。
どうしてお養父さんお養母さんは童が怖くないのだろう。
蜘蛛族と共にあることが当たり前だった自分の頭では、
考えて分かる訳も無く。
「……?」
キチキチ、と御先が寂しげに歯を鳴らしている。
八つの瞳には心配と気遣いの色が滲んでいた。
ごめんねと呟き、前の脚を手にとって頬擦りする。
「学園に帰る時は一緒やで、御先。」
言葉の意味を理解したのだろう、今度は嬉しそうにキチキチと歯を鳴らした。
そのまま暫し。
日の傾きとともに、いつしか眠りに落ちてしまった。
土蜘蛛の巫女×鋏角衆
仁奈森キャンパス2年1組
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