忍者ブログ
『シルバーレイン』内PC 依藤たつみの日記
[101] [100] [98] [97] [96] [94] [93] [92] [91] [90] [89]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

これ は、まごうことなく、きみのもの。

+ + + + + + + + + +
「…じゃあ、上がってもうてええ?」

搾り出すように発した声が、玄関の空気をゆるく震わせた。
返事を待たず、くい、と指で彼の袖を引く。

「お、いいぜ。誰も居ない?」

「うん。…何で?」

「それは…聞かないのがお約束だろ?」

土曜日。
増えたとはいえ、十人にも満たない店子は皆出払っている。

どうしてそんな事を聞くのか本当に分からなかったけれど、
深く追及する気にもならなかった。

「分かった。ほな、…どうぞ」

「おっ邪魔しまーす、っと」

彼の足音が廊下の床板を鳴かせる。
きしきしと急かすようなその音が、鴉の間へ先立って歩く、自分の鼓動と重なった。






***




「…で、どうすんの?」

「えっとね…」


彼が鴉の間に足を踏み入れたのは、これが初めてだ。
畳んだ布団に麻のラグをかけた即席ソファへ腰を沈め、隣に座るよう手で誘う。
彼は何も言わず右に寄り添い、軽く笑んだ。

左に置かれた文机から小さな紙袋を取り、
頭を少しだけ、彼の肩に寄せる。

中から出したのは、消毒薬、チタンのファーストピアス、それと針。
それぞれを興味深そうに手に取り、彼が意外そうな声をあげる。


「こんだけでいいんだ?」

「うん、お店で教えてもうてんけど…あとは真っ直ぐ穴開けるのに、定規とペンがあったらええって」

「あー、目印か…おけおけ」


本当は病院で開けるよう言われた、けれどそれは言わないことにした。
他の人に触れたくないなんて、幼い我侭を通す為。

不意に、薬の匂いが鼻をつんと刺す。
右を見遣れば、彼がイグニッションカード片手に消毒薬の瓶を開けているところで。


「じゃあ…やる?」

「…ん、うん」


彼の瞳が、サングラスの奥で優しく揺れる。
気遣いと、他の…見たことのあるような無いような、不思議な感情を孕んで。

その目を見たら、何故か。
少しだけ、悪いことをしているような高揚感を覚えた。



PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
プロフィール
HN:
依藤たつみ
性別:
女性
自己紹介:
依藤たつみ(よりふじたつみ)
土蜘蛛の巫女×鋏角衆
仁奈森キャンパス2年1組

***
シルバーレインのPCが綴る日記
アンオフィシャル設定など含みます
お嫌いな方はブラウザバック推奨

コメント、リンクはご自由に!

日記でのお名前掲載、行動描写等
不快に思われましたら御指摘を…
削除または編集させて頂きます
最新コメント
[02/10 ミカドシンル]
[08/29 弓場白]
[06/30 神城・月]
[06/30 桜次胡乃]
[06/29 たつみ]
アクセス解析
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © 八咫烏 All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]