+ + + + + + + + + +
「…じゃあ、上がってもうてええ?」
搾り出すように発した声が、玄関の空気をゆるく震わせた。
返事を待たず、くい、と指で彼の袖を引く。
「お、いいぜ。誰も居ない?」
「うん。…何で?」
「それは…聞かないのがお約束だろ?」
土曜日。
増えたとはいえ、十人にも満たない店子は皆出払っている。
どうしてそんな事を聞くのか本当に分からなかったけれど、
深く追及する気にもならなかった。
「分かった。ほな、…どうぞ」
「おっ邪魔しまーす、っと」
彼の足音が廊下の床板を鳴かせる。
きしきしと急かすようなその音が、鴉の間へ先立って歩く、自分の鼓動と重なった。
***
「…で、どうすんの?」
「えっとね…」
彼が鴉の間に足を踏み入れたのは、これが初めてだ。
畳んだ布団に麻のラグをかけた即席ソファへ腰を沈め、隣に座るよう手で誘う。
彼は何も言わず右に寄り添い、軽く笑んだ。
左に置かれた文机から小さな紙袋を取り、
頭を少しだけ、彼の肩に寄せる。
中から出したのは、消毒薬、チタンのファーストピアス、それと針。
それぞれを興味深そうに手に取り、彼が意外そうな声をあげる。
「こんだけでいいんだ?」
「うん、お店で教えてもうてんけど…あとは真っ直ぐ穴開けるのに、定規とペンがあったらええって」
「あー、目印か…おけおけ」
本当は病院で開けるよう言われた、けれどそれは言わないことにした。
他の人に触れたくないなんて、幼い我侭を通す為。
不意に、薬の匂いが鼻をつんと刺す。
右を見遣れば、彼がイグニッションカード片手に消毒薬の瓶を開けているところで。
「じゃあ…やる?」
「…ん、うん」
彼の瞳が、サングラスの奥で優しく揺れる。
気遣いと、他の…見たことのあるような無いような、不思議な感情を孕んで。
その目を見たら、何故か。
少しだけ、悪いことをしているような高揚感を覚えた。
搾り出すように発した声が、玄関の空気をゆるく震わせた。
返事を待たず、くい、と指で彼の袖を引く。
「お、いいぜ。誰も居ない?」
「うん。…何で?」
「それは…聞かないのがお約束だろ?」
土曜日。
増えたとはいえ、十人にも満たない店子は皆出払っている。
どうしてそんな事を聞くのか本当に分からなかったけれど、
深く追及する気にもならなかった。
「分かった。ほな、…どうぞ」
「おっ邪魔しまーす、っと」
彼の足音が廊下の床板を鳴かせる。
きしきしと急かすようなその音が、鴉の間へ先立って歩く、自分の鼓動と重なった。
***
「…で、どうすんの?」
「えっとね…」
彼が鴉の間に足を踏み入れたのは、これが初めてだ。
畳んだ布団に麻のラグをかけた即席ソファへ腰を沈め、隣に座るよう手で誘う。
彼は何も言わず右に寄り添い、軽く笑んだ。
左に置かれた文机から小さな紙袋を取り、
頭を少しだけ、彼の肩に寄せる。
中から出したのは、消毒薬、チタンのファーストピアス、それと針。
それぞれを興味深そうに手に取り、彼が意外そうな声をあげる。
「こんだけでいいんだ?」
「うん、お店で教えてもうてんけど…あとは真っ直ぐ穴開けるのに、定規とペンがあったらええって」
「あー、目印か…おけおけ」
本当は病院で開けるよう言われた、けれどそれは言わないことにした。
他の人に触れたくないなんて、幼い我侭を通す為。
不意に、薬の匂いが鼻をつんと刺す。
右を見遣れば、彼がイグニッションカード片手に消毒薬の瓶を開けているところで。
「じゃあ…やる?」
「…ん、うん」
彼の瞳が、サングラスの奥で優しく揺れる。
気遣いと、他の…見たことのあるような無いような、不思議な感情を孕んで。
その目を見たら、何故か。
少しだけ、悪いことをしているような高揚感を覚えた。
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プロフィール
HN:
依藤たつみ
性別:
女性
自己紹介:
依藤たつみ(よりふじたつみ)
土蜘蛛の巫女×鋏角衆
仁奈森キャンパス2年1組
***
シルバーレインのPCが綴る日記
アンオフィシャル設定など含みます
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