雨戸も閉めず、駒鳥の縁側に座りぼんやりと中庭を見つめる。
今日は下限の月が美しい。
満月が丁度半分に欠けて、突き刺すような光もどこかやわらかい。
「……?」
ふるり、振り向く。
視線の先には台所と、可愛い店子の姿がひとつ。
きっと似たような理由で寝付けずにいるのだろう。
宵っ張りはお互い様、見咎めも叱りもせずに手招きを。
何か、話してみようか。
「 。 寝られへんのなら、おいで。眠くなる話、したるわ。」
そういえばあんた、前言うてたっけ。
何で来訪者さん用の下宿なん?って。
理由な、あるようなないような…微妙かも。
あのね。
葛城にまだ蜘蛛さんがいっぱい居てた頃の話。
惣ちゃんって、鋏角さんが居てん。惣一郎。
あたしが名前つけたんよ。
かっこよくてかわいくて、優しくて、強くて。
でも、優しすぎてん。
…んー?
せやね、好きやった。
でも、ちょっと違うかも。
あたしな、巫女としては出来のええもんと違ったし、
生まれた時から葛城やないしで、他の巫女に嫌われててん。
蜘蛛さんにつかんと童と鋏角さんの世話ばっかりで…
それは楽しかったけどな。
…人間より、ずっと綺麗やもん。心根とか、色々。
ちょっと話ずれたな。
そんで…あたしにはその時、親が居てなかったから。
他の巫女が時々話す、「家族」ってもんに憧れて。
葛城には親子で巫女やっとう人も居てたしね。
なンか仲良さそうで羨ましくて、他の巫女なんか見るのも嫌やったのに気づけば目で追ってなァ。
家族、欲しなァってずっと思てた。
でも、あたしに人間の味方は居てない。
惣ちゃんだけ。惣ちゃんだけがあたしの家族やった。
ずっと一緒に居ようって約束してん。
でも、あかんかった。
一年半前。
全部終わってもうた。
…………分かるな?
(一呼吸)
惣ちゃんがのうなってから一年経って、
やっとあたしは此処に来れた。
だって、約束してんもん。
生きるって。
生きとったらええことあるって、惣ちゃん言っててんもん。
あんたもそうやろ?
……此処に来てから、色んな人に会うて、
大事な人が出来て、絶対に死ねなくなって。
そん時ね、思ってん。
どんなに捨て鉢な戦場の中でも、
帰る家があったら、帰ろって思えるかなって。
蜘蛛さん鋏角さんは葛城のお山を失くしてもうた。
何処へも帰られへんし、至上の目的も無い。
その代わりに…とか言うたら女王さんに怒られるかな。
明日の晩御飯楽しみやから死なれへんとか、
怪我して帰ったら大家にしぼられるから、とか、そういう。
ちっさいことでええから、生きる為の、繋ぎ留める何かになりたかってん。
阿呆やろ。
ん、…あたし?
うん。
ほんまはそうなんかな。
戦争とか、依頼とか。自棄起こしてまう前に、必ず店子の皆を思い出すねん。
あと、冷蔵庫に何残ってるか。
それやるとね、生きて帰ろうって思うんよ。
それってあたしが繋ぎ留めて欲しいだけやんね、結局。
あはは。
…でも、それでええと思てる。
だって今思うもん。
「 。」
あんたはあたしの家族やって。
***PL***
下宿の店子さんに思いのほか蜘蛛族周辺の方が多くいらっしゃったので、
嬉しさ満点で問わず語りを展開してみました。
この話は店子さんである誰かに語られたもの、だと思います。
それが誰なのかは分かりません。
>店子さん各位
空白部分にご自身の名前を宛てて読んでいただけると転がって悶えたりします。
土蜘蛛の巫女×鋏角衆
仁奈森キャンパス2年1組
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